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正多面体の性質について調べる前に、全ての多面体について成り立つオイラーの定理について述べます。いま、多面体の面の数をM、辺の数をH、頂点の数をTとします。ここに、辺というのは隣り合うふたつの面の交わる直線、頂点は辺が交わる点のことです。M、H、Tの間の次の式がオイラーの定理です。
M−H+T=2 (1)
言い換えれば、辺の数は、面の数と、頂点の数を足した数より2だけ少ないということです。これは、どんな多角形についても成り立っています。
正多面体ではすべての面が合同な正多角形で、それぞれの頂点に集まる面の数は同じです。いま、正多面体の面がm角形で、頂点にt枚の面が集まるとすると、
H=m・M/2=t・T/2 (2)
の関係があることがわかります。これは例えば、面の方で考えれば、ひとつの面の回りに辺はmあります。面の数はMなので、かけ算するとm・Mですが、辺はふたつの面で共有されていますので2倍だけ数えすぎになっています。そこで2で割れば良いということです。
オイラーの定理、(1)式を、(2)式を使って書き直すと次の式が得られます。
(2/m−1+2/t)H=2
さらに変形すると、
{4−(m−2)(t−2)}H/(mt)=2
ここで、(m−2)(t−2)は4以上になることはないことがわかります。また、0以下になることもありません。そこで、mとtの取りうる値のすべての可能性をまとめると表2−1のようになります。ここでは、(1)式、(2)式も使って、M、H、Tの値も掲げてあります。
さて以上で、正多面体には五種類しか無いこと、正六面体と正八面体、正十二面体と正二十面体はそれぞれ互いに面の数と頂点の数が入れ替わっていて、辺の数は等しいことなどがわかりました。つぎにそれぞれの正多面体についてもう少し性質を述べることにします。
写真1
4つの正三角形から構成されます。頂点の数も4つです。以下に述べる値を求めるためには少し計算が必要ですが、ここでは結果だけを列挙することにします。
写真2
6つの正方形から構成され、頂点の数は8つです。
写真3
8つの正三角形から構成され、頂点の数は6つです。
写真4
12個の正五角形から構成され、頂点の数は20です。
図2−4−1
そこで、まず、コンパスで半径rの円を書いて、次に円周上にコンパスで長さaの辺を取っていけば良いわけです。実際にたくさんの正五角形を作る場合にはこの方法が便利です。
ところで、正五角形の対角線には面白い性質があります。図2−4−2に示すように正五角形ABCDEを考えます。対角線BEが対角線ADで切られる時の長さの比、つまり、線分BFとFEの長さの比は黄金分割(Golden cut)と呼ばれる比率になっています。すなわち、切られる前の線分BEの長さに対するBFの長さの比が、BFの長さに対するFEの長さの比と等しくなっています。これは、三角形ACDと三角形DEFが相似であることから理解されます。いま、正五角形の一辺の長さを1として、対角線の長さをxとすると、
1/x=(x−1)/1
の関係があります。従って、
x2−x−1=0
x=(1+SQR(5))/2=1.61803・・・
となります。
図2−4−2
以上のことを利用すれば、sin(2π/10)を計算しなくても正五角形を作図することができます。図2−4−3に示すように、まず、長さ1の底辺CDを書き、底辺の真ん中に垂線を立てます。この垂線上に底辺から1の距離を取ります。これを点Gと呼ぶことにします。点CからGを通る線を引きます。CGの長さは、SQR(5)/2ですから、CGをさらに1/2だけ延長すれば対角線の長さが得られます。コンパスを使ってこの長さを半径とする円をCを中心に書いて、垂線との交点を求めればこれが点Aになります。点BとEは、半径1の円を点A、C、Dを中心に書くことで得られます。
図2−4−3
上のxは黄金比(Golden ratio)と呼ばれて、ギリシャ文字φで表されます。実は、φはいろいろなところで現れることが知られています。例えば、0,1で始まって、次の数が前のふたつの和で与えられる数列(Fibonacci数列)、
0,1,1,2,3,5,8,13,21,34,55,・・・
で、隣り合う数の比を取ったものはφに近づいてゆきます。
同様のことは、最初にどんなふたつの数を持ってきても成り立つことが知られています。
(Lucasシーケンスと呼ばれている。)例えば、
7,4,11,15.26,41,67,108,175,・・・
この他、いろいろなところでφが現れるそうです。Optics & Photonics News(1993年8月号)には、「光学における黄金比」という記事が載っています。
写真5
20の正三角形から構成され、頂点の数は12です。