杉本伸夫
多面体とは4つ以上の平面で囲まれた立体のことで、面の数に従って四面体、五面体などと呼ばれます。多面体のどの面を延長してもその面が多面体を切らないような多面体を凸多面体といいます。多面体のなかで、すべての面が等しい正多角形でできていて、互いに隣あう面の成す角が等しいものは正多面体と呼ばれます。正多面体は、正四面体、正六面体(立方体)、正八面体、正十二面体、正二十面体の五種類に限られています。
数学の本にはおそらく上のような記述と共に、多面体の頂点、辺および面の数の間の関係を表わすオイラーの定理が述べられ、確かに正多面体は五種類しかないことが説明されるはずです。聞きかじったところによると、正多面体はユークリッドの「原論」の最終巻で取り扱われ、「原論」の目標とも言うべきものであるそうです。また、正多面体はプラトンの宇宙論の基礎ともなっているとのことです。
本文では、正多面体と正多面体の角を切った多面体、さらに、正多面体を基にして球形に近い多面体を設計する方法についてお話します。本文でも、数学公式集に載っているような最小限の情報は入れておかないと申し訳ないので述べることにしますが、本当の目的は、著者がいろいろな多面体を作って楽しんだことの紹介といったことにあります。
実際に多面体を作ってながめてみると、よく考えれば当然のことではあっても、これまでは気がつかなかった面白いことを発見されるに違いないと思います。例えば、正六面体と正八面体、正十二面体と正二十面体は互いに面と角を入れ換えたいわば親戚の関係にあり、サッカーボールは正十二面体と正二十面体の間をつなぐ形になっていることなど、実際にながめてみればよくわかります。また、どんな多面体も個々の多角形とそのつなぎ方を正確に設計しておけば、全体の設計図はなくてもひたすら部分を作ることで全体が自然に出来てしまうということも身を持って体験できます。これなどは大きな分子がどのようにして自然にできるのかといったことや、組織論の話のネタにもなるものです。
さて、本文では、まず、五種類の正多面体の性質を調べることから始めます。つぎに、サッカーボールのように正多面体の角を、切口が正多角形になるように一度だけ切った多面体について考えます。このような多面体はもちろん正多面体ではありませんが二種類の正多角形の面から構成され、頂点は全てひとつの球面上にあります。このような多面体の角をさらに切ったものの切口はもはや正多角形にはなりません。本文ではこのような多面体については考えません。
つぎに、正多面体を基礎として多面体を球に近づける方法について考えます。例えば、正二十面体を構成する正三角形を四つ、九つなど、の小さな三角形に分割して、しかも各頂点が球面上に来るように設計する方法です。この場合、分割の方法には任意性もあり、設計者の個性を発揮する余地もあります。このような手法は、ドームの設計、球面に貼るタイルの設計、ゴルフボールの窪み(ディンプル)の設計など応用分野が広いと思われます。フロリダのディズニーワールドのEPCOTセンターにはシンボルともなっている球形に近い多面体を基礎とする大きなドームがあります。この構造はかなり複雑で、本文ではこの構造を解析することはしませんが、たぶん基本的な設計方針は本文で述べるものと同様であると思われます。