レイリー散乱ライダー



 高度約30km以上の成層圏ではエアロゾルがほとんどなく、ライダー信号は大気構成分子のレイリー散乱による。レイリー散乱ではαとβの関係が理論的に知られているのでライダー信号から大気密度に比例するβが厳密に求められる。得られた大気密度から、気体の状態方程式と静水圧の式を用いて気温を求めることができる12)。この手法は高層大気の気温の測定手法として有効である。また、大気密度の測定は大気波動現象の研究に用いられる。

 エアロゾルの存在する高度領域のライダー信号にはミー散乱成分とレイリー散乱成分の両方が含まれる。このライダー信号を高分解で分光し、スペクトル幅の狭いミー散乱成分とスペクトル幅の比較的広いレイリー散乱成分を分離する手法が開発されている。この手法は高スペクトル分解ライダーと呼ばれ、高分解能のエタロン19, 20)や原子(分子)の吸収線を利用した原子(分子)フィルター20)を用いて受信信号が分光される。大気構成分子の分布が既知であると仮定すれば、ライダー方程式を用いてレイリー散乱信号から消散係数の分布が厳密に求められる。これとミー散乱成分からエアロゾルの後方散乱係数が精密に求められる。この他、レイリー散乱(レイリー・ブリルアン散乱)のスペクトル形状の気温に対する依存性を利用して気温を求める手法も研究されている19, 21)

 図にエタロンを分光素子として用いた高スペクトル分解ライダー装置の構成を示す。

文献
12) A. Hauchecorne, and M. L. Chanin: Geophys. Res. Lett. 7, 565 (1980).
19) Schwiesow, R.L. and L. Lading: Appl. Opt. 20,1972 (1981).
20) C.J. Grund and E.W. Eloranta: Opt. Engineer. 30, 6 (1991).
21) H. Shimizu, S. A. Lee and C. Y. She: Appl. Opt. 22, 1373 (1983).



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