ミー散乱ライダー



 大気による散乱は、主に大気中のエアロゾル(浮遊粒子状物質)によるミー散乱と大気構成分子によるレイリー散乱である。対流圏低層にはエアロゾルが多数存在するため、可視,赤外領域の散乱はエアロゾルによるミー散乱が支配的である。大気中のエアロゾルの散乱係数は近似的に波長に逆比例するのに対して、レイリー散乱は波長の4乗に逆比例する。このため紫外領域ではレイリー散乱の寄与も大きい。また、上空ではエアロゾル濃度が急激に減少するのでレイリー散乱が重要になる。

ライダー信号はライダー方程式と呼ばれる次式で表わされる16)

 P(R) = cβ(r) exp[-20Rα(r)dr] / R2   (1)

ここに、Rは距離、cはシステムの定数、β(R)、α(R)はそれぞれ大気の後方散乱係数と消散係数である。(1)式には、後方散乱係数と消散係数の2つの未知数が入っているため、この式のみでは厳密には解くことができない。αまたはβを求めるためにはαとβの間に何らかの仮定をおくことが必要である。Klett13)はαとβの間にべき乗の関係を仮定し、遠方で境界条件を与えて微分方程式を解く方法を提案し、安定な解を得た。また,Fernald17)はミー散乱成分とレイリー散乱成分に分けて、それぞれαとβの比例関係を仮定する解法を示した。この方法は比較的消散係数の小さい大気の場合、良好な結果を与えることが知られている。一方、霧や雲などの場合は多重散乱の寄与も大きく、これを考慮することが必要となる。

 ライダー信号の強度のみでなく偏光解消度を測定することによって、大気中のエアロゾルにどれくらい非球形の粒子が含まれるかを推定することもできる。この手法は、黄砂の観測や雲の内部状態の観測に有効である。また、多波長を用いてミー散乱を測定することによってエアロゾルの性質を分類したり18)、粒径分布を推定する手法も研究されている。

 ミー散乱ライダーでは、特定のレーザー波長を必要としないので、高出力、高繰り返しのQスイッチパルスの得られるNd:YAGレーザーとその第二、第三高調波(1.06μm, 532nm, 355nm)が広く用いられている。


文献
13) J.D. Klett: Appl. Opt. 20, 211 (1981).
16) R.T.H. Collis and P.B. Russell: Laser monitoring of the atmosphere, Chap. 4, Splinger-Verlag (1976).
17) F.G. Fernald: Appl. Opt. 23, 652 (1984).
18) Y. Sasano and E. V. Browell, Appl. Opt. 28, 1670, (1989).



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