エアロゾル、大気構造、雲の観測



 ミー散乱ライダー観測によって消散係数あるいは後方散乱係数の空間分布を定量的に求めることができる。また、エアロゾルをトレーサーとして大気の構造を可視化して観測することができる。さらに、エアロゾルの分布パターンの移動を利用して風向風速を測定することもできる。  大気汚染に関係する大気構造の観測は、地上設置型のライダーや航空機搭載ライダーを用いて数多く行われている31-35)。例えば国立環境研では地上設置の大型の Nd:YAGライダー31)を用いて、大気境界層32)や、海風前線の構造33)の観測が行なわれた。また、米国ウィスコンシン大学では、高速掃引ライダーを開発し大気境界層構造の3次元的観測を報告している34)

 地球的規模のエアロゾルの濃度分布は大気の放射特性を決める重要なパラメータである。地上設置のミー散乱ライダーは、対流圏のエアロゾルの定常的な観測や、黄砂などの観測に用いられている。

 成層圏の高度 20km 付近には、火山噴火などで形成されるエアロゾル層がある。成層圏エアロゾルは大気の放射特性に影響を及ぼすばかりでなく、エアロゾル表面の化学反応がオゾン層の破壊に関係すると考えられ注目されている。極域の成層圏では極成層圏雲(PSC:Polar Stratospheric Clouds)と呼ばれるエアロゾルが出現し、極域におけるオゾンホールの発生に関係することが知られている。ミー散乱ライダーは成層圏エアロゾルやPSCの有効な観測手段である。現在、世界各地でライダーによる成層圏エアロゾルの観測が行われている36-45)。この中では、多波長による粒径分布の推定40, 43)や、偏光解消度の測定43)も行われている。また、ライダーデータを用いて、オゾン層破壊との関係で注目されているエアロゾルの表面積を推定する研究も行われている44, 45)

 ライダーによる雲の観測は、人工衛星からの受動センサーでは得られない雲低高度が測定される点に特長がある。このため、衛星観測のグランドトゥルースとしてのライダーによる世界的な観測計画が実施されている46)。また、高度10km付近の巻雲は地球温暖化との関連で注目され、レーザーレーダーを使った研究が盛んに行われている47-49)
文献
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