大気汚染気体、大気微量成分の測定
大気成分の測定には差分吸収ライダー(DIAL)が有効である。大気汚染気体については、色素レーザーを用いてNO2(測定波長〜450 nm)、色素レーザーの高調波を用いてSO2(〜300 nm)、O3(〜290 nm)、NO(〜227 nm)などが測定されている50-55)。また、炭酸ガスレーザーを用いてO3の測定が行われた56-57)。これらの分子については、距離分解能を持ったDIAL測定により,都市大気環境の監視に必要なppbレベルの測定感度が得られている。最近、Tiサファイアレーザーや光パラメトリック発振器 (OPO) を用いた大気汚染測定用のDIALシステムも開発されている。
排煙中の汚染気体や工場周辺の汚染気体や有毒ガスの漏洩検知といった目的では測定対象の濃度が高いため、いろいろな分子の測定の可能性がある。これまでに、色素レーザーの高調波を用いてHg蒸気(253.652 nm)58)、Cl2(〜300 nm)59)、トルエン(255-277 nm)60)、ベンゼン(230-270 nm)60)、DFレーザーを用いてHCl(〜3.64 μm)61)、炭酸ガスレーザーを用いてエチレン(〜10 μm)62)の濃度分布の測定が報告されている。この他、揮発性有機化合物などについては多種の分子の測定が可能であり、炭酸ガスレーザーを光源とするシステム63, 64)などが開発されている。また、3.2-3.7μm 帯には各種の炭化水素の吸収帯があり,これらの測定を目的とした小型の光パラメトリック発振器の開発なども進められている。
紫外領域のレーザーを用いたDIALは、対流圏、成層圏のオゾンの非常に優れた観測手法である。成層圏の観測では高度 50 km 付近までの濃度分布が比較的精度良く求められる点に大きな特徴がある。従来のドブソン分光計による測定はカラム量が精密に測定されるが、精度のよい高度分布を得ることはできない。また、ゾンデによる観測の到達高度は 30km 付近が限界である。ところが、フロンガスによるオゾン破壊は 40 km 付近で顕著に起こると予想され、ライダー観測が注目されている。オゾンDIALでは 280-310 nmの波長が用いられ、エキシマーレーザーやYAGレーザーの第四高調波の誘導ラマン散乱、色素レーザーの第二高調波などが光源として用いられている。
地上設置のライダーによるオゾンの観測は、欧州、米国、カナダ、南極など世界の各地で行われている38, 65-72)。下の図は国立環境研のオゾンライダーで観測された高度毎のオゾン濃度の経年変化である73)。このシステムでは、XeFレーザーと重水素のラマンシフター、それにXeFレーザーを用いて、308 nm、339 nm、351 nm の3波長を用いて成層圏オゾンの測定を行っている。オゾンの吸収のある波長は308 nmで、339 nm、351 nmは吸収されないが、エアロゾルの散乱の波長依存性より生じる可能性のある誤差をチェックし、補正するために3波長を用いている。
国立環境研オゾンライダーで観測された高度毎のオゾン濃度の経年変化73)。
現在、NDSC (Network for Detection of Stratospheric Change)という、新しい観測手法を中心とする地上観測の世界的ネットワークが組織され、そのなかでもDIALによるオゾンの観測、ミー散乱レーザーレーダーによる成層圏エアロゾルの観測,レイリー散乱レーザーレーダーによる気温の観測が中心的な役割をはたしている。
一方、NASAなどでは航空機搭載のオゾンレーザーレーダーが開発され、対流圏、成層圏の観測において数多くの顕著な成果を挙げている。NASAのBrowellらによる航空機搭載オゾンライダー74,75)ではYAGレーザー励起の色素レーザーの第二高調波(〜300 nm)が用いられている。
この他、地球環境問題に関係する大気微量分子では、メタンとCOのDIAL測定の可能性がある。これらについては、それぞれ、3μm帯、5μm帯の波長可変レーザーが必要であり、高出力のOPOなどの開発が待たれる。
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