宇宙からのライダー観測



 地球環境におけるライダー観測の動向のひとつは既に述べたように世界的な地上観測ネットワークであるが、もう一つのアプローチは宇宙からのライダー観測である。宇宙からのライダー観測の有効性については1970年代の終わり頃から数多くの研究が行われてきた。また、これに基づいていろいろな提案がなされてきた。なかでも、ミー散乱ライダーによる雲やエアロゾルの測定、コヒーレントドップラー法による風向風速の測定、差分吸収法による水蒸気の測定などは宇宙からのライダー観測の意義が特に大きいと考えられている。

 1994年秋にスペースシャトルからの初めてのライダー観測LITE計画15, 107)がNASAにより行われた。LITEではNd:YAGレーザーの基本波と第二、第三高調波を用いて雲、エアロゾルの観測が約2週間にわたって行なわれ、雲、エアロゾルのグローバルな分布の鉛直断面など、従来の手法では得られなかったデータが得られている。このような、雲、エアロゾルのデータは気候変動等の研究において非常に有効なものであり、衛星搭載ライダーによる長期間の観測が望まれている。

 人工衛星搭載のミー散乱ライダーは欧州108)や日本でも計画されている。日本の宇宙開発事業団では、2001年の打ち上げを目指して、ライダー実証衛星の開発が進められている。このライダーは、ELISE (Experimental Lidar in Space Equipment) と呼ばれている。

 NASAのLAWS計画109)に代表される衛星搭載ドップレーザーレーダーによる対流圏の風向風速の全地球的な観測は、気象分野から実現が強く期待されている。LAWS計画は現在まだ具体化していないが、提案当初の炭酸ガスレーザーではなく、固体レーザーを用いたシステムの研究が進められている。単一波長で高出力(パルスエネルギー数J)の目に安全な波長領域(1.5μmより長波長)の固体レーザーの開発がこの計画の実現の鍵となっているようである。

 水蒸気DIALについては、成層圏を飛行する航空機に搭載したシステムの開発がNASAで進められており、この計画の成果が衛星搭載DIALの計画に反映されるものと考えられる。衛星搭載水蒸気DIALの研究は日本でも気象研究所などで行われている。

 この他、衛星搭載レーザーレーダーによる中間圏の金属蒸気層の観測についても検討が行われている110)。  水蒸気、オゾン以外の大気微量成分については、メタンとCOのDIAL測定の可能性が考えられる111)。その実現のためには高出力の赤外波長可変レーザーが必要である。

 その他の対流圏の大気微量分子の観測については、衛星搭載レーザーレーダーではなく地上レーザー局と衛星との間のレーザー長光路吸収法が現実的で有用な方法であろう112)
文献
15) M.P. McCormick, D.M. Winker, E.V. Browell, J.A. Coakley, C.S. Gardner, R.M. Hoff, G.S. Kent, S.H. Melfi, R.T. Menzies, C.M.R. Platt, D.A. Randall, and J.A. Reagan: Bull. Am. Meteorol. Soc. 74, 205 (1993).
107) R.H. Couch, C.W. Rowland, K.S. Ellis, M.P. Blythe, C.P. Regan, M.R. Koch, C.W. Antill, W.L.Kitchen, J.W. Cox, J.F. DeLorme, S.K. Crockett, R.W. Remus, J.C. Casas, and W.H. Hunt: Opt. Engineer. 30, 88 (1991).
108) E. Armandillo: SPIE Vol. 1714, 2 (1992).
109) W.E. Baker: 16th International Laser Radar Conference, Boston, MA. NASA CP-3158, 251 (1992).
110) 文部省宇宙科学研究所地球大気観測ワーキンググループ, 地球大気観測計画,p.222 (1991).
111) F. Allario, W.E. Miller, and L.Staton: SPIE Vol. 1714, 4 (1992).
112) N. Sugimoto, A. Minato, and Y. Sasano: Asia-Pacific ISY Conference, NASDA CM-199-2, 59 (1992).



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