国立環境研究所のライダー研究の紹介


 ホームページで紹介した 小型エアロゾルライダーによるエアロゾル・雲の観測研究の他に、国立環境研究所では、掃引式の大型ライダーによる対流圏・成層圏エアロゾルの観測研究、オゾンライダーによる成層圏・対流圏のオゾンと成層圏・中間圏の気温の観測研究、研究船「みらい」搭載ライダーによる雲・エアロゾルの観測研究などを行ってきました。

 また、ライダーに関連する新しい観測技術として、人工衛星に搭載したリフレクタ(ADEOS衛星搭載RIS)を用いた地上衛星間のレーザー長光路吸収法による大気微量分子の観測、エアロゾルの定量測定のための高スペクトル分解ライダーの開発などの研究を行ってきました。

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国立環境研究所大型ライダー

 大型ライダーは大気汚染およびこれに関連する大気構造の遠隔計測を目的として昭和54年に完成された。この装置は高出力・高繰り返しのYAGレーザーを光源とし,直径1.5mの受信望遠鏡を持ち,掃引機能を持つライダーとしては世界最大規模のものであった(写真1)。


写真1 大型ライダー
(H. Shimizu, Y. Sasano, H. Nakane, N. Sugimoto, I. Matui, N. Takeuchi, Appl. Opt. 24, 617-647, 1985.)

 大型ライダーを用いた研究では,まず光学的に見たエアロゾル濃度を定量的測定するためのデータ解析手法の研究が行なわれ,広域エアロゾル分布を定量的に測定する手法が確立された。また,信号検出システムにも改良を加え,半径約50kmの範囲のエアロゾル分布の定量的測定が可能となった。また,エアロゾル分布をトレーサーとして,大気境界層の構造や海風前線の構造と内陸への輸送の動態などが明瞭に可視化して観測された。

図1−1は大型ライダーの垂直スキャン、水平スキャンによって明らかにされた大気境界層内の対流セルの構造である。


図1 大気境界層の対流セルの構造
(Y. Sasano, H. Shimizu, N. Takeuchi, Appl. Opt. 21, 3166-3169, 1982.)

図1−2(a)は海風前線の鉛直断面の観測結果である。図の右手から海風が吹き込んでいる。図1−2(b)は水平掃引によって観測された海風前線の位置を,時間を追って地図上に示したものである。海風前線が午後に内陸に移動する様子がわかる。

図1−2 (a)海風前線の断面の構造と,(b)内陸への移動
(H. Nakane, Y. Sasano, J. Meteorol. Soc. Jpn. 787-792, 1986.)

大気汚染に関連する大気構造の観測と並行して,黄砂など対流圏の長距離輸送現象の観測や対流圏エアロゾルの季節変化に関する観測研究も行われた。また,成層圏エアロゾル層の観測も昭和58年に開始された。地球的規模の大気環境問題へと研究の中心が変遷するに伴って,対流圏・成層圏のエアロゾルの観測が主要な観測項目となった。

図1−3は大型ライダーによる継続的なスキャン測定によって得られた対流圏エアロゾルの季節毎の消散係数の高度分布である。春季に上空のエアロゾル濃度が多い特徴が見られ、黄砂によるものと推定される。

図1−3 季節毎の対流圏エアロゾルの鉛直分布
(Y. Sasano, Appl. Opt. 35 (24) 4941-4952, 1996.)

図1−4は1991年のフィリピンのピナツボ火山噴火後のつくば上空の成層圏エアロゾルの変化を示す。噴火によって成層圏に注入されたエアロゾルが,数カ月後に日本上空に到達したことがわかる。成層圏エアロゾルは,大気の放射特性の観点からだけではなく,オゾン層破壊との関連でも注目されている。

図1−4 ピナツボ火山噴火後の成層圏エアロゾル
(Hayashida, S., Sasano, Y., Geophys. Res. Lett., 20 (7) 575-578, 1993.)

大型ライダーの写真集 (2.51MB)

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国立環境研究所オゾンライダー

 オゾンライダー(写真2,図2−1)は成層圏および対流圏のオゾンの測定を目的として,昭和62年度に製作された。このライダーは,大気の後方散乱とオゾンによる吸収の両方を利用してオゾンの高度分布を求める差分吸収法と呼ばれる手法を用いている。ライダーによるオゾン観測は,高度約50kmまでのオゾンを高度分解能を持って精度良く測定できる点に大きな特長を持ち,フロンガス等によるオゾン層の変動を監視するうえで最も有効な手段のひとつである。

 写真2 オゾンライダー

図2−1 オゾンライダーの構成

 国立環境研究所オゾンライダーは,高度15kmから50kmまでの成層圏オゾンの高度分布を測定する。高出力のXeClエキシマーレーザーとNd:YAGレーザーの第三高調波を用いて,308nm,355nmの2つの波長のパルスレーザー光を発生する。これらのレーザー光を天窓から天頂方向に発射し,上空の大気分子で散乱されて地上に戻る光を直径1mの望遠鏡で集光して波長毎の時間応答波形を記録する。これを解析することによってオゾンの高度分布を求める。
 図2−2は,オゾンライダーで観測されたつくば上空のオゾンの,高度毎の濃度変化を示す。1年周期の変動は季節変化である。この他、準2年周期振動(QBO)、太陽活動の11年周期の変動を抽出し、トレンドの解析が行われた。
 

図2−2 高度毎のオゾン濃度の変動
(Park, C-B., H. Nakane, N. Sugimoto, I. Matsui, Y. Sasano, Y. Fujinuma, I. Ikeuchi, J. Kurokawa, and N. Furuhashi, Appl. Opt. Vol. 45, 3561-3576, 2006. / Tatarov, B., Nakane, H., Park, Ch. B., Sugimoto, N., Matsui, I., International Journal of Remote Sensing 30, 3951-3960, 2009.)

オゾンライダーの写真集 (3.4MB)


NIESオゾンライダーの紹介ビデオ(1988年制作、監督・撮影:杉本伸夫)
(QuickTime Movie、4min20sec、2MB)

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