大気中、および表層海水中のDMS濃度の測定
                       名大 永尾一平
◆はじめに
硫化ジメチル(以下、DMS)は海洋では植物プランクトンにより生成される。大気中の濃度は海水との気相液相間の平衡濃度に比べてはるかに低いため(1/100~1/1000)、海洋から大気中に供給される。全球の大気へのDMSのフラックスは年間16〜32TgSと見積もられており、人為起源の硫黄化合物の放出量の1/3~1/4であるが、海洋性気団などではDMSの寄与が高いと考えられる。

DMSは大気中でOHラジカル、NO3ラジカル、あるいはClやBrOなどのラジカルによって酸化され、SO2、MSA、H2SO4、DMSO、DMSO2などに変化し、特に海洋大気中の硫酸塩エアロゾルの主要なソースであるばかりでなく、雲凝結核(CCN)や雲の形成においても重要なガスと考えられている。

◆目的
主目的は、この海域の海水中と大気中のDMSの分布を調べ、大気への放出量を求めること、また、自動連続測定装置が船上観測でどの程度機能するかのテストも兼ねる。また、(一時的なデータであるので追跡は難しいが)黄砂の飛来が海洋生産の変化を経てDMS濃度分布にどのような影響を及ぼすか、あわよくば何か情報を得られれば、と期待している。

◆測定方法
GC/FPDと自作オートサンプラーによる自動測定。
大気ガス観測室の左舷側に室内からテフロンチューブ(外径13mm)を約5m伸ばし、ポンプで連続的に外気を吸引(5〜8l/min)。その一部の空気をテフロンフィルター、パーマピュアードライヤーを経て大気濃縮部(TenaxGR、-40〜-50℃)に80ml/minで導入し濃縮。所定の時間(30〜60分で設定)経過後、ヒーターで濃縮部を加熱(140℃)しGCに導入。

海水中のDMS濃度の測定は、表層海水(CTD観測によると海面下10m)をオーバーフローさせてパイレックスガラス瓶(100ml入り)に採り、注射器を用いてバブラーに20ml移す。N2ガスでバブリングして海水中のDMSを追い出し、大気測定と同様に濃縮後、GCで分離、定量する。

◆途中経過
(1)大気中のDMS濃度
(2)海水中のDMS濃度
(3)海洋からのDMSフラックス(風データと海水温データを入手後)



図 大気と海水中のDMS濃度の出航後から20日9時までの時系列。




図 東経146度25分上の海水中(表面下10m)のDMS濃度の緯度分布。




図 5月14日〜25 日午前までの大気DMS濃度、気象条件(21日途中から)。
出航以来数十pptvであったが、24、25日は低気圧に伴う強風のためか、100〜300pptvに増加。25日未明の寒冷前線通過後、濃度はやや下がるが、強風のためか100pptvを超える。