目的
太平洋上に存在するエアロゾルの気候への直接効果(太陽放射を散乱、吸収して地球-大気の放射収支を乱す効果)を定量的に見積もるために、エアロゾルの光学特性と化学組成を求める。
エアロゾルの光学特性は、太陽放射が大気中を伝達する過程で非常に重要なパラメータである。さらに光学特性は、人工衛星の輝度データから算出される、光学的厚さの検証の為の海上実測データとして必要であるが、データが不足しているという状況である。また、化学組成は、エアロゾルの発生源(自然起源、人為起源など)を推定する為に求める。
今後、検証された人工衛星の輝度データを用いて、太平洋全域における光学的厚さの分布と季節変動の推定を行い、最終的な目的は、太平洋上のエアロゾルによる放射強制力(攪乱された正味のエネルギーというのでしょうか;単位はW/m2)を算出することである。(今のところハルカカナタ・・・)
観測項目
・サンプリングシステム
空気の取り込み口は、コンパスデッキにある白い鉄柱の高さ5mの位置に設置した。設置は太田先生が行った。危ないですからヘルメットかぶってくださいと船員さんに怒られながら。はいはいと言いつつ作業を終えてしまった。実は聞いてなかったのかな???約27mのホースによって汎用観測室まで空気を引っ張っている。
取り込み口
外気は、汎用観測室にあるディフューザーに導入される。均一な空気を採取するためである。そこから以下のようにして空気を各測器に分岐する。なお、フィルターサンプリングは別のホースで空気を引いている。またすべての観測項目は、D=2μm以上の粗大粒子をカットして測定している。光学的パラメータは、サブμmに属する微小粒子が大きく効いてくるからである。
サンプリングシステム概念図
以下、それぞれの項目について説明していく。
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散乱係数
エアロゾルの光の散乱の度合いを示す。Integrating Nephelometerは、530nmの光を発射して、エアロゾルによって散乱された(ほぼ)全角度について積算した光強度を計測している。1分毎の値を内蔵のデータロガーに記録している。散乱性を有するエアロゾルは、やはり硫酸塩エアロゾルと有機エアロゾルである。質的に効き、さらに運が良いのか悪いのか、それらの粒子は、粒径的にも散乱効率が良い粒径範囲に属している。都市大気では、散乱係数は10の-4乗オーダーくらいであり、バックグラウンドの海上では、10の-6乗オーダーとなる。海上では、DMSなどの自然起源物質が酸化されて生成された非海塩起源硫酸塩エアロゾルや、微小粒子に属する海塩粒子などの寄与も大きいのではと考えている。そのような状況の中で、海洋上に移流された人為起源エアロゾルがどのくらい効いてくるのか、今後、意識して取り組むべきところである。
Integrating Nephelometer (IN)
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吸収係数
エアロゾルの光の吸収の度合いを示す。Particle Soot/ Absorption Photometerは、565nmの光を用い、フィルター上に溜めたエアロゾル層を通過した透過光をモニターすることによって吸収係数を算出している。記録は、1分毎に行っている。吸収係数に関係するエアロゾル成分は、エレメンタルカーボンである。よって吸収係数は、エレメンタルカーボンの大気中濃度にほぼ比例し、その値を約10分の1をすればμg/m3
の単位に変換できる。都市大気では、吸収係数は10の-5乗オーダー以上を示し、バックグラウンドの海上では、10の-7乗オーダー以下となる。バックグラウンド海洋上には、エレメンタルカーボンの発生源は、ほとんどないので(みらい自身の煙は別にして)非常に小さな値となる。
Particle Soot/ Absorption Photometer (PSAP)
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粒子数
粒径別の粒子数を1分毎に記録している。
Optical Particle Counter (OPC)
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Filterサンプリング
(石英フィルター、テフロンフィルター)
二種類のフィルターを使用している。石英フィルターで捕集した試料は、燃焼法によって粒子状の有機炭素と、黒色純炭素を分析する。テフロンフィルターでは、イオンクロマトグラフィーによるイオン成分の分析と、ICP-MSによる金属成分を分析する予定である。現在、石英フィルターは2日間、テフロンフィルターは1日毎に交換している。
フィルターサンプリングシステム
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光学的厚さ (北大低温研遠藤先生)
太陽の直達光強度および周辺光を測定し、その減衰からエアロゾルの光学的厚さを算出できる。さらに、波長毎にも直達光を測定しているので、消散係数の波長依存性を知ることができ、そこからエアロゾルの粒径分布も算出できる。なにからなにまで、すべて自動なので、手がかからないスグレモノである。
Sky Radiometer