互いに直角になるように合わせた3枚の鏡はレトロリフレクタとして働く。すなわち、入射する光を正確に逆の方向に反射する。この性質は、測距用や大気汚染気体計測用のレーザーリフレクタとして利用されている。

 さて、「互いに直角」以外にも3枚の鏡面がレトロリフレクタとして働く角度の組み合わせが存在する。これらは、次のふたつの場合に限られる。
1.ひとつの角度(二面間の角度)が90/N度(Nは正の整数)で、あとの二つは直角
2.3つの角度が、90度、60度、45度のとき(これを鋭角レトロリフレクタと呼んでいる)
これら以外の場合はレトロリフレクタにはならない。

 3枚の鏡面がレトロリフレクタとして機能する条件は次のように言うことができる。いま、リフレクタの各鏡面で反射されたリフレクタ自身の虚像を考える。これは、リフレクタの頂点の回りを取り囲む立体になる。条件とは、まず、上のようにして考えたリフレクタの虚像が原点(リフレクタの頂点)の回りをすき間なく取り囲むこと。さらに、実際のリフレクタの、原点をはさんで向こう側の虚像が、実物と点対称であること。ここで点対称というのは単にリフレクタの外形が点対称であるではなく、中の空間を含めてそうであるということで、例えば、入射面に矢印を書いて、各鏡面で反射してたどった場合、どの道筋を通っても点対称な矢印に到達するということである。

 上の条件は、レトロリフレクタの反射光の道筋を考える際に、光線の反射をたどるのではなく、光線はリフレクタの頂点の回りを取り囲む虚像のリフレクタの中をまっすぐに通り抜けて、向こう側の点対称な虚像の世界に出ていくと考えることによって導かれる。

 虚像が原点の回りをすき間なく取り囲まないような場合は、反射光は変な方向に出てくることになる。リフレクタの虚像が原点の回りをすき間なく取り囲むが、向こう側の虚像が実物と点対称でない場合は、この光学系はレトロリフレクタとは異なる性質を持つ。例えば、90度、90度、60度の場合はルーフプリズムのように機能する。虚像の立体を考えた場合に、各面の反射の道筋によって対称性のつじつまが合わないような場合には、光学系の一部は、レトロリフレクタ、一部はルーフプリズムとして機能するというな場合もある。

鋭角レトロについては
N. Sugimoto and A. Minato: Retroreflector with Acute Dihedral Angles, Optics Letters 19, 1660-1662 (1994).
A. Minato and N. Sugimoto: New Method for Calculating Reflected Wave Fronts of Acute Retroreflectors with Tuned Dihedral Angle, Optical Review 4, 191-194 (1997).
鋭角レトロの反射面の分割の説明
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